大阪高等裁判所 昭和58年(行コ)44号 判決 1984年6月15日
控訴人(原告) 北畑静子
被控訴人(被告) 西成税務署長
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
原判決を取消す。
被控訴人が昭和五二年八月二七日付で控訴人に対してなした原判決添付別表(一)の更正額欄記載の物品税の更正処分中同表の申告額欄記載の金額を超える部分並びに同表の加算税額欄記載の各加算税の賦課決定処分はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨。
第二主張
当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決五枚目裏一行目「二重加税」を「二重課税」と改め、九枚目表五行目「別表1」及び一〇枚目裏九行目「別表一」をそれぞれ「別表第一」と改める)であるから、その記載を引用する。
一 控訴人
1 憲法八四条は、「あらたに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定する。ところが、物品税法には、古物商が古物を販売したことに課税を認める規定はない。同法三条一項は、物品税の性質及び沿革からして、右課税の根拠規定となるものではない。したがつて、本件処分は、違憲であり、無効であるか又は取消されなければならない。
2 また、憲法八四条の定める租税法律主義は、単に形式的に租税を課しあるいはこれを変更するについて法律又は法律の定める条件によることを必要とするというだけでなく、課税方式、課税率、納税義務者などの点で公平・公正であることをも当然内容としているものである。ところが、物品税法の、第一種の物品に対する課税上の取扱いと第二種の物品に対するそれとの間には、次のような重大な不合理が存し、その不合理は著しく課税における公平・公正の原則に反し、結局憲法八四条の定める租税法律主義に反する。すなわち、物品税法によれば、同じく貴石、貴金属、べつこう等を用いたものであつても、それが身辺用細貨類である場合は第一種の物品とされるのに対し、時計類である場合は第二種の物品とされるが、第一種の物品に対しては小売課税方式がとられるのに対し、第二種の物品に対しては製造場移出課税方式がとられるから、同じように貴石等を用いた製品でありながら、時計類の場合には製造場移出の際に一度課税されるだけであるのに対し、身辺用細貨類の場合には小売のたびごとに課税されることになるのである。しかし、一般に、消費者は、貴石等を用いた製品については、その美的・経済的価値に着目して購入しあるいは売却するのであつて、それが身辺用細貨であるか時計であるかといつた製品の種類は問題としないから、右のように製品の種類によつて課税方式を異にすることにはなんら合理性がない。したがつて、このような不合理な物品税法の規定に則つてなされた本件処分は違憲であり、無効であるか又は取消されなければならない。
二 被控訴人
右一の1、2の主張はいずれも争う。
第三証拠<省略>
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、控訴人の当審での主張に鑑み次のとおり説示を付加するほか、原判決の理由のとおり(但し、原判決一五枚目表六行目「小数」を「少数」と、同裏九、一〇行目「消費のごとに」を「消費のたびごとに」と、一六枚目裏一一行目「現行二五六条」を「現行一五六条」とそれぞれ改める)であるから、その記載を引用する。
1 控訴人は、物品税法には古物商が古物を販売したことに課税を認める規定はない旨主張する。
しかし、物品税法三条一項の「第一種の物品の販売業者」の中には古物商も含まれ、同条同項の「小売」の中には古物を消費者に販売する場合も含まれるものと解すべきであるから、古物商は、消費者に対し古物たる第一種の物品を販売した場合には、他の課税要件をみたすかぎり、右規定により、物品税の課税を免れることはできない(最高裁判所昭和四七年一二月一九日第三小法廷判決・訟務月報一九巻四号一五七頁参照)。控訴人は、右規定は右の場合の物品税課税の根拠規定たりえないと主張するが、独自の見解であつて採用に値しない。
したがつて、控訴人の前記主張は理由がない。
2 控訴人は、また、物品税が同じ貴石等を用いた製品を製品の種類によつて第一種の物品と第二種の物品に分け、前者に対しては小売課税方式、後者に対しては製造場移出課税方式というふうに課税方式を異にしているのは不合理である旨主張する。
しかし、物品税法別表「課税物品表」は、貴石、貴金属等を用いた製品を、控訴人が主張するように製品の種類によつて第一種の物品と第二種の物品とに分けているのではなくして、当該製品中の貴石、貴金属等の占める割合が極めて高いもの(物品税法基本通達別表課税物品の取扱い、第一種の物品共通事項2によれば、当該物品に使用されている貴石、貴金属等の価格又は数量が当該物品の総価格又は総数量の全部又は大部分(おおむね五〇パーセントを超えるもの)であるもの)を第一種の物品たる「貴石製品」、「貴金属製品」等としており、物品税法別表「課税物品表の適用に関する通則」三イは、同一物品が第一種の物品に該当すると同時に第二種の物品にも該当する場合にはこれを第一種の物品とすることとしているのである。したがつて、貴石、貴金属等を用いた身辺用細貨類は、通常第一種の物品に該当することが多いであろうが、それは身辺用細貨類であるがゆえに第一種の物品とされるのではなくして、右の「貴石製品」、「貴金属製品」等に該当するから第一種の物品とされるのであり、また、貴石、貴金属等を用いた時計類も、それが右の「貴石製品」、「貴金属製品」等に該当する場合には第一種の物品とされるのである。そして、第一種の物品がその素材的価値に重きを置いて購入され、鑑賞・蓄財の対象となることが多く、それゆえに使用による減価は少なく、流通の対象となることが多いものであるのに対し、第二種の物品はその使用価値にも或る程度重きを置いて購入され、それだけに日常使用されることも多く、それゆえに使用による減価は大きく、転々流通することは少ないものであるところから、物品税法はこの両者を区別し、前者に対しては小売課税方式、後者に対しては製造場移出課税方式という相異なる課税方式を採用しているのであつて、これには十分な合理性が存する。なお、この点は、原判決も詳細に説示するところである。
したがつて、控訴人の前記主張も理由がない。
二 よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 今中道信 露木靖郎 下司正明)